「消費税の福祉目的化」と「消費税の社会保障目的税化」の違い

「消費税についての問題提起」,平成22年12月15日日本医師会定例記者会見資料(1)

4. 消費税目的税化のポイント
消費税を目的税化しても、法律上は使途を決めるだけなので、不足分は他の
税収や公債で埋めることができる。しかし、運用によっては、次のようなメリ
ット・デメリットがある。
消費税目的税化のメリットは、世代間格差が是正できること、景気に左右さ
れにくい安定的な社会保障財源になることである(表 4.1)。
デメリットは、かつての道路特定財源に見られるように、社会保障財源を目
的税化した場合、既得権益化し、財源がある限り、新たな事業が起こされるお
それがあることである。当面は、消費税率をかなり引き上げても、「消費税収<
社会保障費用」であると予測されるが、既得権益化の懸念がある以上、消費税
収が不足した場合には必ず消費税率を引き上げるというルールが組み込まれる
おそれがある。しかし、現実的には、消費税率の引き上げは容易ではないので、
逆に、社会保障費を抑制する理由に用いられやすくなる。
また、すでに、消費税率を引き上げて、雇用や少子化対策に充ててはどうか
との声も出ており、新たな事業が起こされるおそれが現実味を帯びている。

表 4.1 消費税目的税化のメリット・デメリット
メリット
・世代間格差が是正できる。
・景気に左右されにくい安定的な社
会保障財源になる。
デメリット
社会保障既得権益化し、財源に
合わせて新規事業を起こし支出をし
てしまう。
・そのため、逆に、消費税が不足した
場合には、消費税率を必ず引き上
げるというルールが組み込まれるお
それがある。
・さらには、消費税率を引き上げる環
境にないという理由で、社会保障
が抑制されかねない。

現在、消費税の社会保障目的税化が議論されているが、その背景には、次の
2つの考え方があるように推察される。

1.消費税の社会保障目的税化を善意に解釈する考え方
消費税収が不足しても、社会保障費の抑制につながる仕組みは組み込まずに、
消費税収が不足した場合には、他の税財源や公債でまかなうことを前提として
いる考え方。
2.消費税の社会保障目的税化を巧妙に利用しようとする考え方

消費税収が不足した場合には、必ず消費税率を引き上げるというルールを組
み込み、それを逆手に利用して、近い将来、国民が消費税率の引き上げに同意
しなければ、即座に社会保障費を抑制してしまおうとする考え方。
当面は、消費税率をかなり引き上げても「消費税収<社会保障費」であるこ
とは必至であり、社会保障が消費税を既得権益化するような心配はない。そう
であれば、あえて目的税化せず、現在の福祉目的化という緩い仕組みで良いは
ずであり、説明をつくせば、国民の理解も得られるはずである。
仮に、消費税の「目的税化」が、将来の社会保障費抑制を企図したものであ
るとすれば、日本医師会はその方向性に反対である。
また、国と地方の消費税収の配分、社会保障の役割分担にまで踏み込んで議
論されていないことも問題である。国は、現状の消費税の仕組みをわかりやす
く示し、社会保障の将来像、特に国と地方との関係についてどう考えるのかを
示すよう要望する。